田舎女医の小言

外科医やってます。人生で溜まったネタを放出していきます。

合併症とは何か~合わせて併せて嫌なもの

「合併症」という勘違いされやすい言葉

なんてわかりにくい言葉でしょう。

 

合わせる:一致、合計。

併せる:一緒。二つのものをあわせる。

症:症状。

 

うん。わからん。

 

 かなり誤解されています

「医療ミスじゃないの?」→違います

「必ず起こるんでしょ?」→違います

「たまたま起こるんでしょ?」→そういうものと、そうじゃないものがあります。

 

「なんか怖い」→うーん、そうですね……。

 

たしかに、合併症は嫌なものです。

 

でも、やたら怖がってもいいことはないです。

何割か起こる、とわかって対策や対応を準備しておく類のものです。

 

ちなみに英語ではcomplicationsっていいます。

 

 合併症とは

めっちゃ簡単に言うと

病気・治療をしている最中、もしくは、後に起こる

嫌なことです。

 

図で書くとこんな感じ。

 

f:id:kotonohanohako30:20180507122226p:plain

 

 因果関係は必ずしもありません。

 

メインAと一緒、もしくはちょっとあとに起こる嫌なことB

それが合併症です。

 

合併症は2種類あると思うとわかりやすい

病気のせいで起こる嫌なこと

メインの病気Aのせいで、起こる病気B:合併症

図だとこんな感じ。

f:id:kotonohanohako30:20180507140115p:plain

 

 具体例を1つ。

糖尿病の合併症に、糖尿病網膜症というのがあります。

 

これは

メインの病気A(糖尿病)のせいで

合併症B(糖尿病網膜症)になります。

 

糖尿病って、血管の中を糖分の多すぎる血液が流れるんですよ。

水道管を塩水が流れてるイメージです。水道管が傷みそうでしょう?

そんな感じで、血管が傷みます。

結果、色んな悪いこと=合併症が起こります。

 

目の血管がダメになって、視力が低下するのが、糖尿病網膜症。

最終段階だと失明。

 

糖尿病→糖分含んだ血液→血管が悪くなる→目が見えなくなる=糖尿病網膜症

という感じで、わりと因果関係があります。

 

このタイプの合併症は、

メインの病気に対する治療を頑張って、どうにか防ぎたいものです。

 

糖尿病の人の8割は、どんなに言っても食べまくるけど……(芸能人にもいますね)

失明とか、片足失うとか、かなり恐ろしいことが待っているのに。

 

処置や治療のあとに起こる嫌なこと

処置・治療Aの最中や、その後に起こる嫌なこと(病気・症状)B:合併症

図だとこんな感じ。因果関係は必ずしもありません。

 

f:id:kotonohanohako30:20180507150058p:plain

 

ここでまた、具体例を1つ。

胃や腸の手術の合併症に、腸閉塞があります。

(いろいろ種類がありますが、今回は麻痺性腸閉塞に限定)

 

 

麻痺性腸閉塞は

お腹を切って開ける手術をした人に、起こることがあります。

 

腸が直接触られたり、空気にさらされたりすると

腸がびっくりして、手術後に腸の動きが悪くなることがあるんです。

 

麻痺しちゃうんですね。

 

すると、腸の中で、食べ物や便が大渋滞を起こして、お腹が痛くなって吐きます。

軽症は、ご飯食べるの数日休む。

重めだと、鼻から管をいれるて、詰まってるのを吸引し続ける。

麻痺性腸閉塞のレベルをこえて、物理的に細くなってると手術…。

 

これは、同じ手術をしても、起こる人と、起こらない人がいます。

 

原因は、はっきりしないのです。

 

手術中のミスのせいでは?と思うかもしれませんが、

少なくとも麻痺性腸閉塞は、それはないです。

 

高齢者、体質、その他持病など、条件が悪い人は起こりやすいですね…。

病気はロイヤルストレートフラッシュの概念であります。

参照:病気はロイヤルストレートフラッシュ①

 

 

こういう類の合併症を

医療ミスと混同する人がいて、つらいものがあります。

 

 医療ミスと、合併症は違います。

 

  1. メインの病気のせいで起こる病気B
  2. 治療A後の、嫌なことB

このBが合併症です。

 

ミスじゃない

できれば起きてほしくない

でも、時々起こる

治療に伴う嫌なこと。

それが、このタイプの合併症です。

 

治療はいつも利益と不利益のシーソーゲーム

どんな治療にも「いいこと」と「嫌なこと」が同時にあります。

同時にあるから、「嫌なこと」を合併症というわけで…

 

本人にとって「いいこと」の方が大きい!となったら治療に踏み切ります。

たとえ「嫌なこと」のリスクがゼロではなくても、です。

医療とはそういう、ものです。

 

 大雑把なイメージなので、現場で確認を!

合併症、と一言で表現しても

実際に起こる事態は本当に多彩です。

 

治療をすると

「合併症という不利益が起こることがある」と医療者は知っていて

対応を準備しています。

 

前もって、説明もしています。

 

そのときに、どうか聞き流さず、

  • 何のためにやるのか
  • 治療のいいことは何か
  • どんな嫌なことが起こるのか
  • 自分に起こる確率はどれくらいか
  • どんな対応を準備しているのか

など、確認するように、してください。

 

わからないからと無視をせず

ビビりすぎず

医療に向き合ってくれる人が増えたらなあ、と願います。