痩せてるとやりやすい腹腔鏡手術〜外科医がダイエットしたくなる理由②
シリーズ記事になります。
外科医がダイエットしたくなる理由
一回ぐらいは聞いたことあるでしょうか。
腹腔鏡、という細長いカメラを使ってやる手術。
腹腔鏡手術
腹腔鏡を使ってやるから腹腔鏡手術。そのまんまです。
わかりやすい利点は、からだの表面の傷が小さくて済むことです。
小さい傷(手術創)を、いくつか作り
そこから細長いカメラ&マジックハンドみたいなのを入れて行う手術です。
そのマジックハンドをいれる創=お腹への入り口には
専用のポートを刺します。
こういう、きのこみたいな形です。
真ん中が空洞になってます。
その真ん中に、マジックハンド(=鉗子など)を出し入れして手術します。
こんな感じです。
例えると
- 腹腔鏡手術:視野がカメラに制限されたクレーンゲーム
- ふつうの手術:直接、扉を開けて、ぬいぐるみGET
という感じ。
腹腔鏡の方が時間がかかって、面倒くさいことが多い(部位によっては、こっちの方が、簡単という説もある)
細長い高性能カメラのおかげで
狭い細かいところが、良く見えるという利点もありますけどね。
腹腔鏡の手術は、痩せてる人の方が断然やりやすいです。
肥満の人の腹腔鏡手術
腹腔鏡手術のとき、太っているとどうなるか。
イラストで描くとこんな感じ。
ポートがいつものサイズだと、腹の中まで届きません。
特別に、長いの出してもらいます。
で、
この、ポートを刺すときって、慎重さが必要なんですよ。
無闇に勢いよく刺すと、お腹の中の臓器を傷つけてしまうので。
確実に、安全に、カメラなどで確認しながらやるんですが、
腹壁が皮下脂肪で分厚いと、いつもより力をいれなきゃいけなくて、
でも、そんな「ごすっ」とはできないので、まあ、やりづらい。やりづらい…。
ただでさえ視野が制限される腹腔鏡手術。(……クレーンゲーム)
中に、わっちゃわっちゃと内臓脂肪があると、物凄くやりづらいです。
時間がかかります。
普通の人より危ないです。
ヤセテヨー
気腹=作業スペースのために空気をいれる
「気腹(きふく)」という腹腔鏡手術で必ずやることがあります。
お腹の中の、作業スペースを確保するために、
お腹に空気をいれて膨らますんです。
正確には、空気じゃなくて、二酸化炭素をいれます。
酸素なんかいれたら爆発するし、血液に吸収されない気体なんかいれたら塞栓の原因になりますだ。
風船的に、ぷくーっとお腹を膨らます。
これがね、
腹壁が分厚いくて重いと、なかなか膨らまない。
かなり気圧が必要になる。
お腹がパンパンになる。
すると、呼吸が難しくなるんです。
お腹がパンパンに膨らんでると
息がしづらいかなってなんとなく想像できませんか?
正確にいうと、肺の動きを調節してる横隔膜が動きづらくなっちゃうからなんです…
加えて…ですけども。
腹腔鏡手術のときって、
手術台の高さ&傾きを調整して
頭を低くして、足側を高くします。
(その方が臓器の位置的に手術やりやすくなることが多い)
これって、さらに呼吸しづらくするんですよね……肥満だと、なおさら。
まあ、結局は
肥満すぎると、腹腔鏡の手術が安全に行えないんです。
一度、まじでこれで腹腔鏡手術が中止になったことあります。
お腹をぷくーっと膨らませたら
ちゃんとした呼吸が保てなくて
腹腔鏡手術中止、ふつうに、お腹を開ける手術に変更!って。
医学っぽく言うと、肥満の方に、気腹したら換気量保てなくて、開腹移行、です。全身麻酔中は人工呼吸器で、呼吸を保つのですが、身体が重すぎて空気入っていかないのです。
肥満で合併症も増える=順調に回復できないかも
「合併症」て誤解されやすい言葉なんですが…解説は別の記事で書きます。
肥満の人は、手術のときに合併症が起こる可能性が増えます。
手術後、順調に回復できないことがあると思ってください。
うーん、改めていいことないですね……。
手術前に適正体重へ!
しつこく書きましたが
肥満体型すぎる方の手術って本当に大変です。
時間があって、可能な時は減量を指導します。
手術の種類にもよりますが、ダイエットに成功しない限り手術できない‥‥ということもあります。
脂肪が多すぎる方に手術するのって、それだけ危ないんです。
標準体型、ちょいぽちゃ体型なんかは全然問題ありません。
まあ
BMIが25ぐらいまでだと……助かります。
BMI30とかは、厳しいです。
今回とりあげたのは、
極端に太るのは、やっぱりやめた方がいい
と伝えたかったからです。
BMIについては下記リンクをご参照ください。
ダイエットと題名には書きましたが
本来の英語のdietて体重を減らすということではなく、
取り決められた食事っていう意味です。
病気や健康のための、決まった食事です。
本来の意味通りに、一時的な体重減少を目指すのではなく
適切な食生活を続けて
適正体重をキープしたいもんですね。