田舎女医の小言

外科医やってます。人生で溜まったネタを放出していきます。

「標準治療」はスタンダードな最新治療

 標準治療という言葉を聞いて、どんなイメージを持ちますか?

ふつうの治療?なんかいまいちな感じ?でしょうか。

 

この言葉、イメージと、実際の意味が大きく異なる言葉です。

 

標準治療の定義

効果があると証明されている最新治療

しかも、保険適用で安い

病院窓口で個人が支払う額は安い*1

 

つまり最高なんです。

現時点の医学が提供できる最高の医療なんです。

 

英語だとStanderd treatment スタンダードな治療。

これを日本語に訳すと、どうしても「標準」となってしまうんですよね。

標準という言葉からは、日本人は「平均」とか「真ん中」とかイメージしがち。

「標準?じゃあ、もっといいものがあるんじゃないか?」と咄嗟に感じてしまいます。

 

違いますから!

最新の効果が証明されてる治療ですから!

 

 

最先端の医療に交じるニセ医療

この間NHKクローズアップで特集されていました。

最先端治療とホームページで銘打っている病院で治療を受けたが

全く効果がなく、病がどんどん悪化して短期間で亡くなってしまったという方が。

 

最先端医療というきらびやかな言葉を使って

病に苦しむ人を搾取する詐欺まがいのニセ医療が存在するのです。

 

①最先端の「標準」治療なのか

②最先端の「効果が証明されていない」治療なのか

 

これは全く違います。

 

上に書いた通り、標準治療は、効果が証明された最新治療です。

で、②効果が証明されてない治療の中にも、2種類あります。

 

②-1.標準治療になるのを目指している最新治療

「患者さんにきちんと効果がある証拠」を貯めている真っ最中のものです。

臨床試験を行っているもの等です。

治験とも呼んだりします。

 

今の標準治療では

進行癌を完全に治す・消すことは難しいですし

他にも克服できていない病気はいくつもあります。

それを、一つでも多く克服しようと頑張っている研究段階のものですね。

 

治験は、標準治療よりも高いことが多いですが…

異様な高額ということはないです。

 

あ、治験に参加しても超高額な謝礼などが渡されることはありません。ドラマブラックペアンで患者さんが300万渡されてたらしいですが、そんなことは実際には欠片もありませんので。

 

②-2.証拠もないし標準治療も目指してないニセ医療・魔法系

 こっちは倫理感も何もありません。

標準治療を目指しているわけでもありません。

 

それらしい言葉を並び立てて

「絶対に治る」

「ここに来たから大丈夫」

「癌は克服できる」

と真っ当な医療者が使えない言葉を使って

病に苦しむ方を誘いこんでいるのです。

 

そして高額です。

科学的に証明されていない偽物なので、国からお金がおりないからです。

 

ニセ医療の見分け方

・治療効果の証拠が「何人かに効いた」などごく少数。もしくは「こんな風に効く」という図が書いてあるのみ。(まともな医療は何千人、何万人の治療効果の蓄積です)

・異様な高額

・標準治療の否定

・「絶対」「大丈夫」「他の医者に騙されている」などの言葉を使う

 

あたりかと思います。

 

標準治療は、最高で最新だが全てを克服していない

標準治療は、まぎれもなく

科学的に証明された最新治療です。

しかし、全ての病を克服しているわけではありません。

合併症だってあります。

副作用だってあります。

 

医療者は、それを説明せざるを得ません。

 

「合併症も副作用もありますが、70%ぐらい治ります。病とつきあってきましょう」

という説明より

「絶対に治る!!大丈夫だ!」

に流れていく気持ちもわかるのですが……

 

信じたい世界だけを信じているのは危険です。

 命を縮め、お金を詐欺師に奪い取られることになります。

 

医師は安心させてくれない

説明を詳しく聞くほど不安が募る、とそんな声をよく聞きます。

でも、嘘は、言えないのです。

 

今の人手不足の医療現場で

コミュニケーションを十分にとって

不安を与えすぎず

嘘も言わず

事実を伝えるというのは中々難しいです。

 

他の先進国のように

病院で働いている人をもっと増やして

説明専門、コミュニケーション不全解決専門の職種などがいれば、少しはいいのかもしれませんね…。

 

 

最先端がん治療トラブル、よくできている番組でした。

“最先端”がん治療トラブル - NHK クローズアップ現代+

 

 

*1:

保険適用の標準治療は、病院窓口で「個人が払う額」は「安い」です。

3割負担、後期高齢者だと1割負担、というやつです。

それ以外の分は、税金や保険料で賄われています。

そう考えると、真の意味で安くはないのです…この高齢化社会では医療費増大が問題なのです。

この国民皆保険が、あとどれくらいの期間、どんな形で保たれるかは不明です…