田舎女医の小言

外科医やってます。人生で溜まったネタを放出していきます。

チャイルドシートで子供の死を防ぐ①

先日、ツイッターでチャイルドシートのことを呟きました。

 

 

 

万単位で、イイねやリツイートしていただいたのは、初めてでした。

びびりました。

 

で、調べたこと、リプライ欄を含め、

かなりの情報量となりましたのでまとめます。

 

同期からの忠告ブログ版

久しぶりに、大学同期にばったり会いました。

軽い挨拶の後、妊娠報告をしました。

 

同期「おめでとう!……チャイルドシート買った?」

私「うん、もちろん」

同期「知ってると思うけどさ、車の走行中はチャイルドシートに絶対座らせて。いくら泣いても抱いちゃダメだからね」

 

真剣な顔、というよりも暗い顔をして話すので、何かあったのかと聞くと

 

「うん。あった。救急外来で。

 親が赤ちゃんを抱っこしているときに起きた

 交通事故の患者が運ばれてきたんだけどさ…

 子供だけが衝撃を受けてて、あれは多分ほぼ即死だった。

 でも親はほぼ無傷でさ……

 半狂乱だった。きつかった

 

悲劇でしかなかった、と。

 

ぞっとしました。

 

「チャイルドシートで防げた悲劇」がゼロになってほしい

そんな一心で、冒頭のツイートをしました。

 

車内で抱っこはただの危険行為

「ちゃんと抱っこしているから大丈夫よ」

「抱っこ紐してるから大丈夫よ」

 

結構こういう考えの人もいるようです……。

 

絶対ダメです。無理です。アウトです。

 

時速20km程度でも、急ブレーキをかけただけで、大人は赤子を落とします。

車内にぶつかりまくります。

 

それが、普通の時速で走っているとどうなるか。

赤子は吹っ飛びます。フロントガラスを突き破ります。

 

子供を離さなかったとしても

大人の体と、車内との間に挟まれ、緩衝材になってしまいます。

(私の同期があったのは、このタイプの事故だった…)

大人が無傷で済むために、子供が使われてしまうんです。

 

車内で「抱っこ」は危険です。

幼児以上を遊ばせておくのも危ないです。

 

優先順位1位は子供の命のはず

「ちょっとの距離だから……」

「安全運転するから……」

 

そんな面倒くささ、油断があるようです。

走行距離、運転技術に関係なく事故は起こります。

他の車がつっこんで来ることだってあります。

 

チャイルドシートを使わなくていい理由にはなりません。

 

「嫌がってぐずる」

「泣いたままにしておくのが辛い」

子供が泣いているのは、辛いです。あやしたくなります。

可哀想、と思うかもしれません。

 

でも

その場での心地よさ、

子供の機嫌を優先した結果、

失うのは子供の命です。

この優先順位だけは、間違わないようにしたいです。

 

チャイルドシートを外せば危険だとわかっているのに

子供のギャン泣きに耐えられないのは

大人のワガママでしかないという意見もありました。 

 

 同乗者にはしつこく伝える

チャイルドシートに関して、認識の甘い親族に苦労されている方も多いようです。

夫だったり、妻だったり……

結構多いのが、チャイルドシート義務化前の祖父母世代。

 

口うるさく言うと

「しばりつけて可哀想」

「あんた達にもつけてなかったけど、生きてるじゃない」

という類の反応が返ってくるようです。

 

 

生きてるのは、たまたま運が良かっただっただけです。

 

チャイルドシートさえあれば、事故という不運が起きても、

命が助かる可能性が格段に上がります。

 

リプ欄には、

「軽い事故にあったけど、チャイルドシートの性能が高くて助かった。慌てて様子を見たけど、中で変わらずスヤスヤ寝ていた」

という事例もよせられていました。

 

なので、もう説得しかないです。

 

説得には

「面倒臭いのはわかるけど」

「安全運転してくれるのはわかるけど」

「泣いてるのは辛いけど」

と一旦、同意・共感を示してから

 

淡々と

事故の事例を伝える 

クラッシュテストの動画を見せる【JAFユーザーテスト】 - YouTube

法律違反だと伝える(道路交通法第71条の3第3項)

 

などが有効でしょうか。

 

…どうしても理解してくださらない人とは

一緒に車に乗るのを避けるしかないかもしれません。

自分が運転中に、同乗者に勝手に外されたらたまったもんじゃありません。

 

長くなりました。

次回、チャイルドシートの付け方、工夫、子育てタクシーなどについて書きます。

 

 

冒頭ツイートのリプライ欄に役立つ生身の情報が、たくさん寄せられています。

事故、怪我、工夫、苦労話などなど。

チャイルドシート関連でお困りの方は

クリックして覗いてくださるとヒントが得られるかもしれません。

 

お題「どうしても言いたい!」

田舎(医療)徒然③田んぼにつっこむ高齢ドライバー

過疎地域の診療所、小さな病院にお手伝いに行くことがしばしばあります。

町立病院勤務&診療所・介護施設往診めぐりも、したことがあります。

 

そこで考えた車徒然。

 

 

田舎の移動は車

ひたすら車です車。

「市」なら車がなくても工夫次第でどうにかなりますが

「村」になってくると移動手段は、本当に車です。

 電車もバスも数時間に1本ですし、そんなに駅も停留所も張り巡らされていません。

 

どうしても自家用車の割合が高くなります。

我が家も車持ちであります。

 

町立病院から、あちこちの村へ診察に

常勤医が5人程度の「町立」の病院で働いていた期間は

週1〜2で、別のいろんな診療所や老人保健施設・介護施設に「手伝い」にいきました。

 

このときの移動も車です。

病院お抱え運転手さんに、あちこちに連れて行ってもらうのです。

運転手さんがまたいい人だったな。

往診の日に寄る小さな飲食店が、まさに新鮮食材地産地消で、むちゃくちゃ美味しかった…

 

田んぼと高齢ドライバー

晴れた初夏の日。

美しい青田の中を走行中、ああいい天気だなぁと思いながら空を眺めていると

運転手さんが言いました。

 

運転手「先生。車が落ちてる」

私「はい?」

 

前を見ると

道路から、一段低い田んぼにつっこんでる、車が一台。

 

ーーーええええぇ、けが人は?

と探すと、乗車していたと思われる老人が二人いました。

 

運転手さんに車を停めていただき、

事情聴取というか、簡単な診察(?)。

幸い二人とも、ほぼ無傷。元気。

これから町立病院に向かうところだったとのこと。

間違えて田んぼに落っこちたとのこと。

 

すでに警察などの手配は済んでおり、ほどなく

警察車両などが到着したので引き継いで立ち去りました。

 

こんな感じで

田んぼや畑につっこんでる自家用車を、1ヶ月で2回見ました。

いずれもドライバーは75歳以上の高齢者でした。

 

 

 

他にも

 

危なっかしい動きをしている車をしばしば見ました。

 

その度に

「あれ、免許返納しないとダメだわ」

と私がつぶやくと

病院運転手さんは、激しく頷いてくれました。

 

 

生活スタイルを変えないと加害者になる

田舎は足がないのも事実。

しかし、高齢者が運転せざるを得ない生活スタイルは、無理があるんじゃないか……

と、このときに痛感しました。

私は幸い誰かが死傷する事故現場にはあいませんでしたが、偶々でしょう、ね。

 

 

ニュースで高齢ドライバーの事故を見る度に

なんともいえない悲しい気持ちになります。

 

人間は生きていれば必ず老います。

判断力も落ちます。視力も、聴力も。

車は便利だけど、殺傷可能な道具でもあります。

 

だから、必ず、運転はいつかやめなければいけません。

というか、若者の車離れって別にいいんじゃないですかね…人を加害するリスクが減るんですから。維持費考えるとタクシーの方が安い場合が多いのですし。

 

高齢ドライバーの事故が後をたたないので

そのうち規制は強化されるでしょう。

しかし、待っている間に、自分や親族が加害者になりかねません。

 

現時点だと

75歳以上の高齢ドライバーが認知症だと診断されると、免許証は停止または取り消し(2017年3月12日施行快晴道路交通法)

です。

 

実際体感した身としては、

認知症と診断されていなくても、危ないです

 

まずは、身近なところからで

自分と親族が、何歳に運転免許をやめるか決めておきたいですね。

 

ちなみに

高齢になればなるほど

家族の説得だけで運転をやめてくれる人は稀なようです。

 

なので、

判断力がある年齢のうちに、決めることが大事です。

可能であれば50〜60代あたりでしょうか……

そうしないと、生活スタイルの変更も間に合いませんし。

 

どうか、車を持っている方は、ご一考くださいませ。

 

 

これを書いていて思いましたが

少しずつ過疎地域から、戦略的に撤退し、小さな都市に集約することを

少子高齢化社会では考える必要があるのでしょうね。

有効な少子化対策が行われている感じもないし、今から赤子が増えたとしても、しばらくは若者が少ないターンは続きますし…。

 

予防しやすい癌~ヘリコバクター・ピロリ菌による胃癌

わりと簡単に予防しやすい癌があります。

今回はそのご紹介です。

 

ヘリコバクター・ピロリ@胃

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)という菌がいます。

物を溶かす酸がたくさんある胃の中でも生存できてしまう強者です。

 

最初に発見した医師は

「胃なんて、生物にとってきついところに菌なんているわけないじゃんw」

と馬鹿にされたそうです。

 

先駆者とは辛いものですね。

それでも、見事に理屈で証明してみせたのだから

ウォーレン先生とマーシャル先生半端ないです。

これ、1979年のことなんです。意外と最近の話。

 

ピロリ菌のせいで胃癌になる

ヘリコバクター・ピロリがいると胃が荒れます。

胃炎、胃潰瘍で済めば、まだマシです。

厄介なことに

胃癌、MALTリンパ腫、特発性血小板減少症などの

命に関わる病気も引き起こします。

 

ピロリ菌が何十年も、胃の中に巣くって、

胃を荒らし続けた結果、胃癌になってしまうのです。

 

胃なんかで生息できるうえに、厄介なやつあります。

 

ピロリ菌を除菌して病気を防ぐ!

検査

ピロリ菌がいるかどうかは

血液、尿、便、呼気、胃カメラなど、いろいろな方法でチェックできます。

「消化器内科」と銘打っている病院なら、大抵できます。

その病院で出来なくても、できるところを紹介してくれるはずです。

 

大きい病院じゃなくて大丈夫です。

平日の、街中の「消化器内科」さんを受診してください。

胃とか腸とかいう言葉が入ってるとこです。

 

一度も検査したことがない&胃の症状がある方は、検査する価値があります。

 

治療=除菌しよう

みつかったら必ず除菌しましょう。

 

抗菌薬2種類+胃酸を抑える薬、合計3種類を2週間飲む

というのが基本の除菌治療になります。

 

人によっては、抗菌薬による副作用で、下痢が出てきます…。

でも、胃が荒れ続けたり、癌になるよりはマシですよね。

 

ちなみに除菌成功率は100%じゃありません。

1回目で除菌できなかった人は

他の抗菌薬に変更して再チャレンジすることになります。

東京だと1回目で除菌できる人は70%ぐらいになってるみたいです…(耐性菌が増えたらしい)

 

感染時期は基本は幼少期

「これから、新たにかかる可能性はないの?」と不安になる人もいるかと思います。

基本的には、ありません。

 

ピロリ菌には、幼少期に感染すると言われています。

免疫力がアップした成人になってからは、感染しにくいようです。

 

なので、大抵の人はピロリ菌は、1回チェックすれば大丈夫です。

 

ピロリ菌の感染経路は不明

たぶん、口から入ってるのですが……それがどこから来ているかわかりません。

60代以上に多いことから、

井戸水を使用していたことや、

上下水道が整っていなかったせいではないか、と言われてはいますが、不明です。

 

除菌で100%胃癌を防げるとは限らないけど…

病気は白黒つけにくいです。

なので「ピロリを除菌したら、絶対胃癌にならない!」というわけじゃありません。

何故って、他の原因でも胃癌になることがあるからです

例えば加齢。例えば胃に刺激を与え続ける食習慣。

あと、ピロリ菌が長期間いた後では、除菌しても結局胃癌になるパターンもあります……DNAエピジェネティクス変化が関係あるらしいです

 

ただ医療者としては、

ピロリ菌は

胃癌になる大きなリスクの一つなので

取り除きたいです。

 

防ぎやすい癌なんて、ごく稀です。

できるリスクマネジメントはやっておきたいところです。

 

病気はロイヤルストレートフラッシュの記事でいうところの

大きな原因になるカードを減らす、という概念です。

 

www.inakatoko.com

 

今(2010年以降)の日本人感染率は20~30%

かなりピロリ菌が認知され、検査・除菌が行われた結果の数値です。

以前は日本人60%という恐ろしい感染率でしたから、かなり改善しています。

 

今の日本人の感染率は20~30%

これでも、10人のうち2人なんで、結構高いと思います。

 

病院で働いていれば、ちょくちょく会います。

 

世代別にいうと

20~30代で10%の感染率、40代で25~30%ぐらいの感染率です。

10人いれば1人2人はいそうな気配です。

 

身近な例では

研修医同士で胃カメラの練習をやったら、めっちゃ胃が荒れてた→ピロリ検査したら発見!という人がいました。

 

誰しも一度ぐらい胃カメラ、ピロリ菌の検査は受けた方がいいかもしれません。

 

最後に

ピロリ菌検査は一石三鳥ぐらいのお得な検査です。

医学を勉強した身として全力でおススメします。

 

原因も、防ぐ方法もわかってる病気なんて、本当に少ないんです。

 

 

あ、勿論、

ある程度の年齢になったら、ピロリ関係なく

がん検診は毎年受けて欲しいです。

早期発見して、さらっと、癌をやっつけるために。

 

 

田舎医療徒然②医師の配置

田舎の特徴って、選択肢の少なさに集約されるのでしょう。

 

 

「何もない」と言う人もいますが、何もないわけじゃないです。

選択肢が少ないだけです。

 

たまに東京に行くと、選択肢がいちいち多くて、自分は面倒くさくなってしまう田舎人であります…。少し話題になると行列ですし。

 

美術館、博物館、演劇、コンサートは、そりゃ都会がいいですね。

劇団四季は全国公演してくれますけども。

アニメ、ドラマや本は、インターネットのお陰で割と田舎でも快適です。

 

病院も選択肢が少ない

大きい病院は少なくてOK

 

大きい病院(様々な手間のかかる重症の治療、緊急対応ができる病院)は

今後は、少なくなってくる……はずです。

都会でも。

集約化、という言葉を聞いたことがないでしょうか。

 

中途半端な規模の病院があちこちにあるより、

「ここ1つでしっかり完璧に対応できます!なんでも!」という病院がドーン!とあった方が有用です。

スタッフも疲弊してないし、色んな医師の目に晒されるというのは、質の高い医療を受けられる可能性が高いです。

 

広く浅く医師がいると

「ここではスタッフの数も少ないし、施設の設備も貧弱なので対応できないです」

という病院が大量発生することになります。

それだと、重症の患者さんは二度手間ですし、命に関わります。

 

大抵の人は「軽症」なんで

便利に気軽に受診したい!と思って

あちこちに病院があればいいのに…と思うかもしれませんけども。

 

都会だろうが、田舎だろうが

それぞれの病院の役目が明確になっていて、互いに連携がとれていれば、良いのです。

 

 システムが整ってなくて、スムーズにアクセスできない、となれば問題となりますけどね。

 

小さい病院がないと、問題

何か症状があって困ったとき、

薬を飲み続けなければいけないときは、

近くに病院がないとかなり不便ですね。

 

小さい病院でいいんです。

そこにいる医師が、確実に重症を拾って、次の大きい病院に繋げばいいのですから。

……それが、また簡単ではないのですが…

 

話題になってた田舎の診療所

やはり普段、通院する病院が「ない」「遠い」ことは問題となってきます

 

Twitterで一時期話題になっていた診療所があります。

年収2200万円を提示したが、誰も医師が応募しなかった「青森県深浦町の診療所」です。

 

その周りに、全然病院がないのか?と気になって調べてみた所、

隣町の町立病院まで車で16分でした(でも、深浦町の南端からだとアクセスが厳しい??)

その町立病院ホームページによると常勤医は7名。

少ないけど、医師がいるといえば、います……ね。

 

色んな疾患の慢性期(症状が割と落ち着いて薬だけ飲み続ける時期等)は、そこに通えば対応できる気がします。

緊急の時は、救急車をぶっ飛ばして、大きい病院に搬送されることになりますし……

 

もしかしたら深浦町は、県からは、

「配置の必要なし(そこまでの余裕もないし)」と

判断されているのかもしれないですね。

 

それでも、住民のために

普段通える診療所の確保を!と頑張った形だったのでしょう。

 

 

深浦町の診療所は、無事常勤医2名確保して、2018年6月1日から開院されるようです。

深浦町の新診療所 6月1日開業/Web東奥・ニュース

 

 

攻撃対象にされてしまう医師

僻地・過疎地域の医師は、攻撃対象になることがよくあります。

村民、町民全員じゃないんです。

 

一部の方々が

「気に食わない」

と攻撃してくるのです。

 

気に食わない態度だった医師への

家、家族への嫌がらせ、子供へのいじめ、など実際にあるようです。

 

 

診療所勤務の医師から聞いたお話。

「最初はね、信用されなくて大変だった」

「夜中でもたたき起こされてね。わりと軽症で、本人も『早く診ろ!』と怒るぐらい元気なんだけども。最初半年かなー、参ったね」

「1年経つ頃には馴染んで、逆に、『夜に先生を起こしたら悪いと思って我慢した』っていう重症の方がいたりしてね…。そこの塩梅は難しいよね」

「食べ物貰うことは多いよ。美味しいんだけど、余ることも多いかな(笑)」

「あと、どこに行っても町内だと知り合いか患者さんに会っちゃうよね」

「山とか海とか、その場所の自然が好きじゃないと、ちょっと厳しいかなあ」

 

この医師は、近くの「地方都市」に家族が住んで、単身赴任という形で診療所勤務されていたようです。

割と平和に勤務されていたようでした。

 

理想としては

人口に見合った適切な医師配置、病院の集約化が必要。

 

医師は知識のアップデートなども必要だし、「ずーっと同じ過疎地域勤務」として募集されると、二の足を踏む人も多い。

なので

都道府県や国レベルで 医師を配置し、医師も数年で交代するシステムが理想かと。

 

まあ、それが難しいんですけども。

 

 

あと患者側には…

医療資源を大事に使う…という観点もあってもいいのではないかな、と

地方都市常勤&過疎地域の手伝いをしてる田舎医師は思うのでした。

 

 

 

 

田舎医療徒然①選択肢が少ないことの長所

地名としては田舎。医師は意外といた。

田舎という点では間違いない

全力で田舎県として有名な(?)わが県です。

しかし、調べたところ、うちの地域は意外と医師がいました。

県内でも、隣の地域は、医師がかなり少なくて、確かに1~2時間かけて通ってきている患者さんがいらっしゃいます。

 

ええと、でもきっちり田舎ですよ。

年々人口は減少しています。

でも、過疎地域ではない、という程度の田舎です。

 

人口10万人に対する医師数は、県全体としては、勿論全国平均を下回ります。

下から数えた方が早いです。

しかし、うちの地域に限定すると、全国平均ぐらい医師がいました。

 

医療資源はまずまずある

「最先端医療」と呼ばれる類のことは、案外やっています。

一応、大学があるからでしょう。

腹腔鏡手術や、ダヴィンチを使ったロボット手術もやっていますし、

専門外なのであまり詳しくはないのですが、循環器内科や消化器内科でも最先端の治療は行っている様子。

 

注意:福岡市や札幌市のように「大都市」というレベルの場所ではないです。

 

田舎県で初期研修して、都会に出て行った同期は、

「意外と最先端医療は、同じくらいな印象。ただ、その他のちょっとした常識みたいなのが少し古いのが混じってることがあるかも…?栄養とか、抗菌薬とか、そういうの。

特に、県の中でも外れの方になるにつれて。あーでも、先生の個人資質かなぁ…」

とのことでした。

 

逆にそこら辺を気を付けて勉強しておけばいいのかな、とも思います。

自分では、外科なので「最新」に触れにくい分野の勉強会や、ウェブ配信を時々見ることにしています。

 

地方都市、その周辺の救急体制

自分の住んで居る地域は、重病人に対応できる病院があります。

しかし、周辺地域には重病人に対応できる病院がありません。

なので、救急車が周囲から1ー2時間かけてくることもあります。

天気が良ければドクターヘリも飛びます。県でヘリ保持しているのです。

 

自分が、

その重症の人を「受ける」側の大きい病院で働いている時もありますし

周辺地域に手伝いに出ていて重症の人を「送る」側の小さい病院にいる時もあります。

 

小さい病院にいるときは、

医師は自分1人、看護師1〜2人で勤務しています。

風邪ひいた、転んだ、ぐらいは全然構わないんですけども

「何か急いで処置が必要」なときは……大変。

 

明らかな重症、派手な交通外傷などは、

最初から「大きい病院」に救急車で送られてしまうので大丈夫なんですけども。

 

ふつうに歩いて受診してくる心筋梗塞、脳出血などの重症の方を確実にみつけて

その場で出来る最低限の対応をして、命のつなぐために、大きい病院に送る。

 

このとき、結構、精神力体力消耗しますね。

次の医師まで確実につながないと…!と。

 

 

ちなみに「心肺停止」という、

心臓も呼吸も止まっているような状態=あの世にわたりかけている人を

医師1人、看護師数人でこの世に引き止めるのは、かなり厳しいです。

 

医師個人の技能で、運良く「心臓の鼓動が再開」という程度まで戻せても、

その後も切れ目のない専門科による治療が必要なのことが殆どです。

 

「元気になった!」というレベルまで行くには、

重症な人に対応できる大きい病院にかかる必要が、出てきます。

 

 でも、きっと、ここらへんは都会の病院でも同じかな、と。

 

「重症に対応できる医師・医療設備」がある病院は限られています。

小さい病院に、重症の患者さんがきて、

今ここで出来る治療だけをして次につなぐ、っていう場面はどこでもあると思います。

 

おそらく、田舎と都会で違うのは「選択肢」の数です。

 

田舎だとせいぜい選択肢が1〜2カ所

田舎だと

「重症に対応できる病院」は搬送できる範囲で、せいぜい1〜2箇所。

 

なので

田舎県にある病院の方が

救急車の受け入れ率は高くなるようです。

 

小さい病院から、大きい病院へ患者さんを搬送するときも

すぐに受け入れ先が決まります。

他に選択肢がないからです。

 

受ける側も、自分たちの施設が受け入れないとどうしようもない、

とわかっているのです。

 

研修医時代、救急の有名な先生が講演にいらしたとき

「ここの県は、救急車の受け入れ率が高い。断らない。いいところなんですよ」

とおっしゃってくださったのが印象的でした。

 

 

医療施設が少なくて

大きいと施設と、小さい施設にはっきり分かれてる(集約化進んでいる)が故に

連携せざるを得ないのです。

 

田舎県の「まずまず医者がいる」ぐらいの地域は

意外と医療インフラとしては悪くない…かも。

 

なんとも、なんとも言い切れませんけども。

 

選択肢が少ないことの短所、過疎地域については、また別記事を書きます。

医師不足の都道府県はどこだ〜人口10万人あたりの医師数

「田舎」とブログ名に入れてるので

田舎での医師ライフついて、ちょっと書こうかと。

そこで避けては通れない話、医師不足。

 

まずは医師不足の実態って、どうだったかと確認してみました。  

 

人口10万人あたりの医師数

 厚生労働省のページにいって確認してみました。

平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況|厚生労働省

ベスト3

1位 徳島県 315.9

2位 京都府 314.9

3位 高知県 306.0

 

全体的に西日本の方が、医師がたくさんいるようでした。


少ない方3県

47位 埼玉県 160.1

46位 茨城県 180.4

45位 千葉県 189.9  

 

だけれども、医師数だけで語れない側面もあります。

 

たとえば北海道。

医師数は全国平均に達しているようです。

しかし、札幌市などの都市圏に集中しており、

その他はものすごく足りない、医師がいない地域もあります。

 

なかなか数字だけで、ぶった切れるものではない。

難しい。 

 

他の県でも

「県庁所在地」だけが、重い病気・救急に耐える能力をもっていて

その他の地域が大変、という話を聞いたことがあります。

で、県庁所在地の医師たちも、県土全部カバーするから、超働いてるとかも。


他にも

埼玉県は47位ですが、東京都の隣なので、病院へのアクセスはそう悪くないはず。

……たぶん。

 

46位の茨城県が気になったので、「茨城県 医師不足」で検索しました。

以下のPDFがでてきました。

 >茨城県医師不足緊急対策行動宣言

 

平成14年以降、連続46位なので緊急対策をまとめたもののようです。   

医学部生にゼロ金利ローン、病児保育の充実、UIJターンの推進などを掲げてました。

確かに、茨城県出身の同期たち「茨城で就職してくれ〜」という手紙がくるっていってました。

ゼロ金利ローン…?

すでに、全国に返済不要のそういうのありますが……うーん、ローンじゃなくて修学資金の方が、他県に対抗できそうだけど…。

 

医学部生向けの修学資金

あと、わりと全国どこにでも、医学部修学資金というのがあります。

その都道府県で、医師として規定年数働いてくれることを条件に、

学費や生活費補助するよ、という仕組み。

医学部修学資金貸与|へき地ネット 地域医療振興協会

 

生活費月10万とか、年100万とか、

入学金+生活費10万、入学金+授業料+生活費とか、

いろんなバリエーションあります。

 

 

卒後9〜10年その県で働けば

完全に県からの支援だけで、大学生活が送れそうなものも、ありましたね。

例えば青森県とか目立つサイト作ってました。→医ノ森 aomori 

これ見る限りだと、研修医数はこの10年で、かなり増えてました。

 

あ、奨学金(…借金)とは、ちょっと違います。

その分、卒後「その地域でご奉公」すれば、返済不要なものです。

(それを裏切って出て行くと、金利がすごい借金に化けます)

 

 

ついでに言うと、世界と比べて日本は医師が少ない

OECD加盟国の、人口1000人あたりの医師数。

日本、ビリから4番目。

 

……世界でも最高水準の医療を、かなり少ない人数でまわしてますよ……。

妊娠、出産に関わる死(母も子もどっちも)だって、日本は世界で一番少ないし。

 

この厚生労働省の資料が、今日抜粋したことが主にまとまっています。

興味がある方はどうぞ。

医師の需給に関する基礎資料

 

資料を眺めつつ呟き。

女性医師って、本当に増えてきたなー。でも世界と比べると少ないのかー。

今の医学部生は3分の1が女の子かー。東京に女医さん多いなー。

外科女少なっ。でも一番少ないのはやっぱり整形か。

 

何歳の医師にかかりたいか~研修医とおじいちゃん先生とどっちがいい?

ベテランのおじいちゃん先生……

 

医学部高学年ごろに、気づくことがあります。 

「おじいちゃん先生ってヤバい……!」

 

このヤバいは、悪い意味です。

 

何がヤバいかって

最新の医学知識をもってない確率

高齢になると、ガンガン上がるのです。

 

長年の経験が……とか言ってられないぐらい、医学常識って変わるんです。

 

長年の経験より、最新の医学知識!

高齢の医師に診てもらいたい人って結構います。

実際「あんな若い先生で大丈夫か!」的なこと、よく言われましたし。

 

しかし、医学の常識ってあっという間に変わります

この観点からいうと、年をとった「だけ」の医師は正直おすすめできません。

 

身近な話でいうと、脱水の概念なんか、特にそうですよね。

運動中の水分は、体が鈍るから飲まないのが昭和の常識でした。

今では、脱水で死ぬリスクがあるのがわかってます。

とんでもない話です。

 

あと、

「傷」に対する扱いも、そうです。

みなさん、怪我したとき、外で転んだとき、どうしてますか?

「消毒する」って思ってませんか?

しかも「治るまで毎日消毒する」って思ってませんか?

 

消毒、いりません。

 

今は傷は消毒じゃなくて洗浄が基本

消毒、まじでいりません。

それよりも、水道水でガンガン洗ってください。

あ、日本の水道水に限ります。

(日本の厳しい審査基準をくぐりぬけた大腸菌が含まれていない水道水に限る)

 

消毒だけだと、傷についてる汚れは取りきれません。

そのうえ、消毒薬は細菌を殺すかもしれませんが、人間の細胞も攻撃します。

つまり、傷の治りを遅くします。

傷に対するマネジメントは、消毒ではなく、洗浄、です。

バイキンが気になるー、というなら毎日消毒じゃなくて、毎日洗浄です。

 

消毒は、どうしても殺菌が必要と判断したときだけです。

大抵はガンガン洗うことで、十分に菌がなくなるとわかっています。

 

そんなわけで

怪我をした人に、まずやることは

めーっちゃ洗うことです。

家でも是非、そうしてください。

 

外で骨折などの派手な怪我をした人の手術のときって

ブラシ、洗剤、大量の清潔な水、を使ってめちゃくちゃ洗います。

整形外科の先生、まじで洗いまくってます。

 

これがね……

高齢、開業医の外科の先生の手伝いに行ったらね…

創部を毎日、消毒してました……。

 

てか、

傷をパッキングして

身体本来の治癒力で、皮膚が盛り上がるのを待つべきタイミングもあるんです。

そこを全力で無視して、毎日、傷をみて消毒してました。

 

高齢の医者が、患者の傷の治りを遅くしてました。

 

崩れ落ちそうになりました。

 

30〜40代の医師がおすすめ

「最新の医学知識」と「技術」を、

同時にもっている人が多い年代ってのは、やっぱりあります。

必ず「アタリ」というより、「ハズレ」が少ない感です。

 

個人的には、30〜40代の医師がそうだと思います。

50代は、人によっては凄く頼りになる。けど、微妙に古くなってきてる人もいる。

60代も、同じく。古くなってる人の割合が、増える。

70代以上はロシアンルーレット……。

 

あんまり高齢になると

経験と最新知識が組み合わさったすごい先生

経験と自信ばっかりで、最新知識がなさすぎるやばい先生か

どっちかです。

 

で、後者の方が多いかなあ……。

前者に会えると、本当に、嬉しくなって全力で尊敬します。

 

ああ、稀に、後輩に質問できる素敵柔軟性な先生もいらっしゃいます。

 

ちなみに

医局や、大きい病院にいると、「最新知識が無さすぎる」リスクは下がります。

絶えず新しい刺激がありますからね。

 

もちろん、個人経営の開業医で、かなり頼りになる凄い先生もいらっしゃいます。

あの人種は、なんか特別なんだろうな……。

ポンコツさんに会うのも開業医だけどさ…。

 

 20代医師も結構おすすめ

若い医師もいいですよ。

20代医師は、本当に元気です。フットワークが軽い。医療にスレてない。

学ぶ意欲があって、医学部時代の知識=ほぼ今の最新知識。

 

そして、まともな病院なら、必ずバックアップに、上の医師がついています。

上の医師に、報告・連絡・相談することが刷り込まれていて、

結果、かなり医療の質は保証されます。

 

 

傾向の話です……

高齢の医師、全員の知識が古いわけじゃないです。

日野原先生は、亡くなる少し前の診療録も素晴らしかったし…。

 

外科の場合は、長年の経験による「手練れの医師」は確かに存在します

(老眼+手が震えてる場合もあるけど…)

それでも、手術後の術後管理(点滴、傷の管理、食事の管理)などは、

どんどん新しい方法が出ますので、やはり新しい知識を仕入れ続ける必要があります。

 

 

どうか、ご参考までに。

 

蛇足呟き。

ああ、ハズレくじになる前に、年とともに後輩を見守る係になってきっちり定年したい…。定年までは後輩に新しいことを教えてもらいたい。